小さくて柔らかいこと


途中で呼吸がちゃんと奥まで入って行かないことに気付く。

想像より遥かに多く電車に人が乗っていたからか、
ホームで「完全キマってんな」という目つきの人と目が合ってしまったからか、
改札前で分かりやすい高圧的なトークを繰り広げる人の声を拾ってしまったからか、
ここ数日絶対暑いのにきちんとマスクをして青信号を縦横無尽に行き来する人々にどこか恐ろしさを感じてしまったからか、
でもマスクは現行のルール的にも国民性的にも仕事的にも花粉的にもしなきゃいけないという前者とはチグハグな自分自身に気圧されてしまったのか、
花粉の鼻水のせいでそもそも酸欠気味だからか、
そんななか心が拒否しているのにやらなければいけないことを身体を無理やり動かして胃の鉛の存在に気づきながらやったからか、
というか春という季節のせいなのか、

それら全てなのかわからないけれど。

自分に嫌悪感を抱きながら呼吸を確保するために静かな人気の無い公園で休んでいると、
小刻みな息遣いと共に目が爛々としたお散歩中の白い長毛の小型犬が私を見事にロックオンしながらこちらにやって来、私の前で立ち止まった。
戸惑ってしまい、思わず吹いた。

飼い主さんと笑いながら軽く挨拶をし、
白い小型犬は飼い主さんに引っ張られながら惜別の眼差し(に私には見えた)でその場を去った。


呼吸が柔らかくなった。

こんな、小さな柔らかいことだけで埋められれば良いのに。
わんちゃん、飼い主さん、ありがとう。(画力)