歯車

 


「クリニックで薬もらって煙草吸って酒飲んで、そこからドラッグやったらもう流石に人間終わりじゃない?笑


何の為の薬か、何の為の煙草か、何の為にクラブに来て音楽と人に揉まれて何を見て何を感じて何を放出して、何の為にの酒を飲むのか。


だから私はやらないって決めてる。」


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食べ終わった食器をキッチンに戻しながら、急に浮かび上がってきた大海の小瓶のような言葉に気づく。

今までに何度も遭遇しているけど、不意に過去に言われた言葉が浮かび上がってくるこの現象はなんて言うんだろう。

現象名ついてんのかな。


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彼女とはもう長らく連絡をとっていない。

出会ったのは大学時代。

違う大学だったけれど、お互いの歯車が噛み合って偶然出会った。

聡明で、漆黒の真っ直ぐな黒髪に黒い服がやたら似合っていて、切長の美しい目には力強さがあって、

しかし私とこんな会話をするぐらいだから、他は葛藤で出来上がっていたのかもしれない。


今は何をしてるんだろう。

どこに就職したんだろう。

今はどんな髪型をしているだろう。どんな服着ているんだろう。

フランスあたりに留学してそうだけど、結婚したのかな。

子どもはもういるのかな。

それとも所謂バリキャリ組かな。

や、意外と温かい家庭築いてる組かな。

──というか、ちゃんと生きてるかな。


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別に約束をしたわけではないけれど、

それでも私は今なお彼女と交わしたこの会話を忠実に守っている。


彼女はもうこの会話を覚えていないとしても、私の影などとうに消えているとしても、

それが側から見れば虚しい嘲笑の対象だとしても、

私はきっと守り続けるだろう。


食器を洗いながら、また小瓶は大海の中へ消えた。


離れた歯車は回り続けている。