水晶
隣に座ったお母さんが抱っこする「今月1歳になる」という男の子の目を横から見ると、
「来月35歳になる」私は恐ろしくて震えてしまいそうなほど、彼の眼球は透き通っていた。
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ただ好きか嫌いか、快か不快かの社会で生きているであろう彼にムギュっと人差し指を握られたりブンブン振り回されたりしながら、
若しくは目に入った点灯したバスの停止ボタンや、反対車線の大きなトラックや格好良い車に一緒に感動しながら、
彼が未だ知らない、好き嫌い・快不快では分別できない混濁した社会を想う。
きっと彼のような眼を本当は未だに持っているだろう大人たちを想う。
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また偶然会えることはあるだろうか。
微かな期待が私の体内で滲み出てしまうほど、
私はこの瞬間、彼の眼に救われていたのかもしれない。
同じバス停で降り、別れ際お互い「行ってらっしゃい」と言えた私たちは、
きっと良い一日を過ごすことができる。
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彼はもう一歳になったかな。
コロナ禍に於いて過敏な情勢の中、
快く話しかけてくれたお母さん、一緒に遊んでくれた彼に感謝します。