ピザを貪り喰らう者、散る桜に微笑む者

この数十分の間に 
世界の最果てと最果てを目撃したよう。

満席のバスで人目も憚らず膝に置いたピザの箱を広げ、
ピザを貪り喰らうその形相はただの動物にしか見えず、
"嫌悪" という言葉しか頭に浮かばない。

嫌悪に侵され私はたった一駅でバスを降車し、
遊歩道の桜吹雪に覆われながら目的地へと向かう。

途中、
母と1, 2歳ほどの娘が縦横無尽に揺らめく桜の花びらを追いかけ、
始終微笑む姿が目に入る。

自由に舞う桜を手に取ることは難しく、
一心不乱にまだ短い両腕を広げ花びらを追いかけている彼女。

足取りも覚束なく、躓きそうになりながら、
それでも楽しく、ずっと上を見上げている。

── 彼女も動物であるはずなのに。

その最果てと最果てに、脳味噌が大きく揺さぶられた。

私も桜を纏い、歩みを進めた。