時間の殺生 - 愛知②
稲穂は成長途中。
昨日の風雨にも屈していない。
小雨予報も溽暑に変わった。
忘れかけていた運転で
走り慣れた国道一号を進んだ。
不思議なことに身体は覚えていた。
通り過ぎる一つ一つの景色を
その度その度に思い出す、
答え合わせのようだった。
そこにももちろん、
哀歓全て含まれていた。
言ってしまえば
私の脳内でしか再生されないそれらを
一つ一つ無視していることになる。
殺していることになる。
時間を、死なせたくないと思った。
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無事に帰宅し、
不思議なことに身体が覚えていた
縦列駐車で車を停める。
私はここで育ったという、
帰ってきてよかったという、
答え合わせだった。
東京で悶々と考えていた、“「時間」の殺生”。
もしそれが仕方がないと言うのなら、
やっぱり大人は皆んな泣いている。
もしそうだとしたら、
泣かないようにすることを
清々しく諦められるかもしれない。
そう思いながら少しずつ
東京へ戻る荷造りを始めた。