空に孕む
気分が優れないことが多く電車やバスに乗っていると目的地に着く前に途中退場してしまう。
先日は新宿で途中下車して、黙々と歩いた。
まだ足に馴染んでいないブーツは私のかかとの皮膚をすり減らすし、
爪先はトウシューズ並みにタイトだし、
トップラインが足首に擦れて染みる。
きっともう血が滲んでる。
急に寒くなったから防寒具を持って外に出たけど、
ずっと歩いているとじわじわと汗をかいてくる。
もう腕まくりして歩いてる。
何かを振り払うかのように、
靴擦れができてる感覚、足の爪まで血が通っていない感覚、足首から血が出ている感覚、
全てを無視してただ黙々と歩き続けるその根元は、
この高くて青くて遠い空が憎らしいからかもしれない。
だからずっと気分が優れないのかもしれない。
11月ということを思い出すと、妙に納得もできる。
高くて美しい空の下、
紅葉が始まって、年の瀬が近づいている高揚感と焦燥感を感じて、
温かい飲み物が幸せで人々は微笑んでしまう、そんな季節であることを理解しているはずなのに、
もう二度と手に届くことがないものを勝手に思い出し、
足首から血が出てることなんて周りの人は誰も気付きもしないまま、
勝手に息苦しくなって、
勝手に温かい飲み物の幸せから追い出されて、
形振り構わず足を進める過去に囚われた自分の姿が、
実に滑稽であり、悲しい。
「その人が」というより、
「人が」居なくなる事実が息苦しい。
夫が、お友達が、両親が、兄弟が、仕事でお世話になった人が、一度しか会ったことがなくてもすごく心に刻まれている人が、
私という意義を支えてくれているは十分にわかっているのに、
それでも私はどこまでも、限りなく弱い。
ただ美しいものには、とんでもなく悍しいものが孕んでいるように思えてならない。
足首からはやっぱり血が流れていた。
(「気分が悪い」「孕む」から想像した人もいそうだけど、妊娠ではないスマン)