飛行機の中(帰り)
隣に座っていたサラリーマンであろう男性は、私が席に着いた時からイヤホンを耳にして眠っていた。
【ある者は死が余り無頓着そうに見えるので、つい気を許して少し大胆に高慢に振る舞おうとする。と鬼一口だ。もうその人は地の上にはいない。......】
滞在中に読み切ろうと思っていた有島武郎。
読み切ることはできなかったけど、行きと帰りの飛行機で、用意してくれていましたか?と言わんばかりの文が連なる。
大人になって「守り」を覚えてしまったにどこまでできるかはまだわからないけれども、
慣れてはいけないし、馴染んでもいけないし、染まってもいけない。
この居心地の悪さを残していけということかな、
とほんのり思いながらサラリーマンの奥の窓を見ていた。
上空かの夜景の中に溶け込む時、
羽田から新宿行きのバスに乗っている時、
新宿に着いて夜景に中のただの一粒になった時、
何かが身体に溶け込んでいますように。
平手打ちが現実に起こりますように。
無事飛行機がランディングしたと同時に隣のサラリーマンは目を覚ました。