脅迫との距離

 


連日仕事が続くと、脳みそが「もう少し休め」と言っているのにも関わらず、
その時間帯に身体が勝手に起きてしまう。

これ一種の脅迫だな、と溜息を漏らしながらベッドを出るけれど、
月-金で連日働けない私ってやっぱりどうなん、と細く失笑する。

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朝のラッシュアワーに戦々恐々しながら乗車した東西線。
慣れた様子で車内に雪崩れ込み、降車までのマイスペースを確保、更に詰め込まれてもなんのその、のめり込むスマホの画面から視線を逸らさないその様は私を無意識に脅かすプロ。

前日に「東西線 混雑時間」「東西線 空いてる車両」等々をググってた私は何なんだ。
感嘆と悲嘆が入り混じりながら、久しぶりに「社会人」に紛れ込めむ時間。

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ただ、停車駅達のお色か時間帯か、それともただ偶然だろうか、
他の線より新聞や本を読む人が多く見受けられた気がする。

私の隣で着席と共に新聞をスマートに広げる人。
更にその隣ではシックな灰色の布カバーが施された本を取り出す人。
向かいの席にも、斜向かいの席にも。

前日からの戦々恐々は、少しだけ和らいだ。
降車駅を確認したスマホを鞄に滑り込ませ、
代わりに取り出したのは、カフカ短編集。

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何故だか無性に電子機器達から離れたい瞬間が多い。
人との物理的な距離なのか、物理的ではなくとも何々との「繋がりすぎ」な距離なのか。

身体が勝手に起きてしまい、細い失笑。

スマホで今日の天気だけ確認しベッドに置く。
薄暗い部屋で美しい紫色の本を開く。