生きる望み、生かす理性



薬を飲んだのに、胃が深く削られるように痛む。
うー、と声が出てしまうほどの痛みは座っていることも難しく、
とうとう床と同化し天井を仰ぐ。
こんなことしてる間に時間は刻々と過ぎていくし、
特技のブッチを久しぶりにかまそうかとも思ったけれど、
コンクリートの天井を一点見つめていると、
もう一人の私が同化した床から私を押し上げた。

どこかで、
「HAKOは、私の生きる望みであり、私を生かす理性だ」
と書いた。

HAKOとしてタクシーに乗り、つい30分前とは明らかに違う声色で行き先を告げ、
タクシーを降りてからGoogleマップを開く姿勢、歩く速度、顔つきは正にHAKOであることに、もう一人の私がドン引きしている様子も伺えた。

こうやって少しずつ「忙しい」や「仕事」「やらなければいけないこと」を免罪符に自身から目を背けて、そのうち慣れて風化して、
胃が深く削れていたことも忘れて、
涙の存在なんてとうに消えて、
新しい光に目が奪われて、
とうとう平凡になっていくのか。

用事をさっと済ませ、タクシーを捕まえる。
数十分前と同じ声色で行き先を告げ、何通かきていたメッセージに返信をし、スマホをコートのポケットに投げ込む。
支払いは交通費専用のクレジットカード。
受け取った領収書を綺麗に財布に入れる。

「ありがとうございました」の声と同時にタクシーを降りるとき、
ヒールが引っかかりつまづきそうになった。

家に着いた瞬間、私は泣きじゃくった。